京料理の基本は「出汁」だといわれます。京料理の世界で重んじられる出汁について、料理人はどのように考えているのでしょうか。『料亭のお出汁』を監修した下鴨茶寮 東のはなれ・稲付淳料理長に訊きました。
京の都の「であいもん」としての昆布と鰹節
「鰹節と昆布は最高の “であいもん” といえるのかもしれませんね。」
下鴨茶寮 東のはなれの稲付淳料理長は、出汁の素材の昆布と鰹節を語るうえで、“であいもん”という言葉を挙げました。京料理で使われる言葉で、最高の組み合わせという意味です。
「たとえば、海老芋と棒だらは“であいもん”、といわれています。料理人の世界では、この組み合わせの妙を見極め、美味しいお料理を拵えることが腕の見せ所の一つだと思います。」と稲付料理長。
地方の産物が都に運ばれ、出会い交わることで、新たな美味が生み出されてきました。出汁もそのひとつといえるでしょう。昆布と鰹節は、奈良時代の朝廷へ納められた記録も残っており、古くから出汁として使われていたと考えられています。
北海道の昆布と鹿児島の鰹節が京都で”であい“、できたのが出汁というわけです。
日本料理の「お椀」が出汁へのこだわりを生んだ
日本料理において、重要な存在とされるのがお椀(椀物)です。
「日本料理では “椀(お椀物)、刺(お刺身)”という言葉があります。この2種類は“料理の華” ともいわれ、椀物の良し悪しで料理人の力量がわかるともいわれています。だからこそ出汁は繊細なバランスが求められ、(日本料理の)料理人の個性が強く出ます。」と稲付料理長。
「関東の出汁は関西に比べて鰹節の風味を強くきかせることが多く、華やかな香りとスッキリとしたお味に仕立てることが多いように感じます。一方で、京料理は昆布を主役にすることで、奥行きのある余韻を楽しめるようになっています。」
商品化された『料亭のお出汁』は、京都の料亭の出汁らしく北海道産の真昆布をベースにしています。
料亭の料理人が家庭で使う出汁を考えた。その答えとは?
ただ、稲付料理長は「『料亭のお出汁』は料亭の味をそのまま再現したものではありません。」といいます。
「出汁をまかされる料理人は、どんな条件の下でも同じクオリティ、同じ味を再現できることを求められます。そのうえで、季節やその日の料理、食材に合わせて出汁の配合や調味料の組み合わせを調整するのが、(日本料理の)料理人の技です。」
出汁の配合や調味料の組み合わせを“自在に操れる”ことが、日本料理における料理人の条件のひとつといえるのかもしれません。
「料亭や割烹には“煮方”といって出汁や煮物の味をまかされたスペシャリストがいますが、ご家庭で料理を作る場合は、そんな繊細な調整は難しいですよね。
『料亭のお出汁』の監修を依頼された当初は料亭の出汁の忠実な再現を考えていましたが、その場合、料理や素材ごとに配合や調味料の加減が必要になってしまい、作り手にとって調理の難易度が上がってしまいます。
そこで、ご家庭のどんな料理にも使えて簡単においしく仕上がる“土台がしっかりした出汁”を目指すことにしました。」
とりあつかいやすく家庭料理を一段おいしくする出汁
この“土台”とは、単なる旨みの強さではなく、味のバランスのことを指します。
「たとえば、出汁の旨み成分には、昆布のグルタミン酸、鰹節や焼きあごのイノシン酸、干し椎茸のグアニル酸等があります。この配合によって、出汁の味の立体感が決まるんです。」
稲付料理長が特にこだわったのは、出汁の“ピラミッド構造”をしっかり作ることでした。
「旨みには“高さ”があるんですよ。最初に感じる風味、飲んだ後に残る余韻、その間を埋める中間層。このバランスを崩すと、出汁のトップノートだけを強く感じたり、水っぽく感じたりするんです。」
『料亭のお出汁』は昆布をベースにしつつ、鰹節、いわし煮干し、焼きあご、椎茸のバランスをご家庭でも使いやすいように、味の濃さやクセを調整しました。このバランスにたどり着くまで何十通りもの試作を重ねたといいます。
目指した通り、ご家庭においてどんな料理にも使いやすく、お味を一段引き上げてくれる出汁ができあがりました。
まずは毎日の味噌汁をおいしく
稲付料理長いわく「2、3分ですぐに良いお出汁が出るように配合しましたが、すぐ取り出せばすっきりとしたお味に、そのまま出汁パックを入れて煮れば昆布の旨みが出てくるので、また違うおいしさが出ます。堅苦しく考えず自由にお使いいただければと思います。」
稲付料理長におすすめの料理を訊いてみると、「味噌汁です。」との答えが返ってきました。
「実は、お味噌汁に合うような出汁を目指したんです。毎日使う出汁料理は味噌汁だと。なめこの味噌汁とごはん、こういうシンプルな食事がおいしくいただけると幸せですよね。」
『料亭のお出汁』
『料亭のお出汁』は、さっと煮出せるティーパック型。北海道の真昆布、鹿児島の木枯れ鰹節、国産干し椎茸、焼きあごなどの厳選された素材を、ご家庭でのお料理に最適なバランスで配合しました。いつものお料理をグッと手軽に、料亭仕立てのようなおいしさに引き上げます。
毎日のお料理に、また、お料理好きの方への贈り物としてもぜひご活用ください。
プロフィール
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稲付 淳下鴨茶寮 東のはなれ 料理長 1982年、鹿児島県生まれ。 |