京都・下鴨神社のほとりにのれんを掲げる下鴨茶寮。約170年の歴史を紡いできた料亭が、“お菓子”を販売していることを意外に感じるかもしれません。
下鴨茶寮のお菓子『抹茶テリーヌ』発売に寄せ、その背景にある、創業時からの茶懐石の精神、そして総料理長・本山直隆の「お菓子」への熱い想いをお伝えします。
茶の湯の精神から生まれた「菓心(かしん)」
茶懐石からはじまった下鴨茶寮の精神を象徴する言葉のひとつに“菓心(かしん)”があります。
“菓心”とは、お茶を通じたもてなしの心のひとつで、日本料理のコースにおいてはお菓子も料理と同様に心を込めてお出しし、最後の甘味までその心を届ける、という心得にも通じますが、さらに深い意味を含んでいます。
茶の湯は所作、空間、時間を五感で愉しむ総合芸術といわれますが、下鴨茶寮は、現在もさまざまな流派の茶会や茶事(正式なフルコースの茶会のこと)を執り行う料亭として在りつづけています。
茶会はもちろん、茶事においてお菓子は大変重要です。四季やその席の趣向を色濃く反映させるアイコニックなものゆえに、味だけでなく、食感、見た目とデザイン、香り、素材の由来まで考え抜かれている必要があります。それらすべてをお菓子に込めてお客様を愉しませ、さりげない気遣いとともにもてなす、これが下鴨茶寮の“菓心”です。
茶事だけでなく、本店の会席コースにも“菓心”を込めてデザートを提供しています。
日本料理の甘味は、果物をそのまま出すことが多く、素材選びはまず“旬”ありきです。季節のフルーツを中心に、酸味と甘みのバランスを大切にしながら、ときにはゼリーやシャーベットといった形で仕立てていきます。下鴨茶寮のデザートは総料理長が考案して作ります。
下鴨茶寮総料理長・本山直隆にお菓子について話を訊きました。
お菓子を目でも愉しむこころ
下鴨茶寮のコースで提供されるすべてのデザートは、本山総料理長自らが考案し、手がけています。ここまで凝ったお菓子に仕立てる料亭は多いのでしょうか、と問うと
本山総料理長は「最近では、プリンやムースを作る和食の料理人も増えていますが、やはり珍しいとは思います」と笑います。
「高校時代は、パティシエになりたいと思ったこともあります」という本山総料理長。しかし、父も日本料理の料理人だったこともあり、その志を継ぐようにして和食の道へ進みました。
「当時は“パティシエ”という言葉も一般的でなく、ケーキ作りは女性の仕事という空気がありました。それでもショーケースに並ぶお菓子たちの美しさに強く惹かれていました」(本山総料理長)
今でもそのときの“お菓子”への想いが続いているといいます。
本山総料理長の美意識が、舌だけでなく目でも愉しませる会席に生き、下鴨茶寮が大切にしている「菓心」に通じているのかもしれません。
“一期一会”の異業種コラボから生まれた抹茶テリーヌ
本山総料理長が考案した料亭のお菓子に『抹茶テリーヌ』があります。
きっかけとなったのは、下鴨茶寮の主人である小山薫堂が主催する『あえるのよる』でした。
『あえるのよる』は、下鴨茶寮が食文化を発信していくという想いを込めて行っている食の饗宴。イタリアンやフレンチなどの異分野や他店の料理人と、本山総料理長がテーマに沿ってそれぞれ腕を振るい、この“一期一会”で起こる化学反応や新たな提案を愉しみます。“一期一会”も茶の湯の精神を表す言葉として、下鴨茶寮が大切にしている言葉です。
「その日は、バーテンダーの方とのコラボレーションでした。“抹茶を最後に飲むだけでなく、抹茶を使ったお菓子を作ってほしい”といわれて考えたのが、『抹茶テリーヌ』です。お出ししてみたら非常に好評で、本店のコースでも出すようになりました。主に春の新茶の季節にお出しすることが多いですね。」(本山総料理長)
本店コースのデザートとしてお客様の評判を呼び、商品化の運びとなりました。
「抹茶テリーヌ」こだわりのレシピ
本店のコース料理の最後にも登場する『抹茶テリーヌ』は、下鴨茶寮ならではのもてなしの心を感じさせる一皿。商品化された現在でも、最初のレシピと厳選素材をほぼ変えることなく提供されています。
「最初のレシピを変えるぐらいなら商品化しない、と思ったので、今も当時のままです」と、本山総料理長の強いこだわりを感じさせます。
「鮮やかな緑を出すために黒いあんではなく、白あんを使いました。ただ、それだけだと普通の水ようかんになってしまうので、牛乳、ホワイトチョコレート、生クリームを加えてコクをだしてなめらかな口当たりに仕上げています。」(本山総料理長)
料亭のあしらいらしく、麩焼きせんべいをつけました。
贈って喜ばれるお菓子であり続ける
最後に、本山料理長はお菓子への想いをこう語りました。
「子どもから大人まで、お菓子が嫌いな人はあまりいないのではないでしょうか。贈りものをされること自体が嬉しいことですが、それがお菓子となるとよりワクワクしたり楽しみであったり、幸せ感が増すような気がします。誰かに渡してもらったときに喜んでもらえる商品であり続けてほしいと思って作っています。」
大切な方を喜ばせるものであるよう、下鴨茶寮が“菓心”を込めて作るお菓子を、どうぞ、ご体験ください。
プロフィール
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本山 直隆下鴨茶寮 総料理長 1981年佐賀県生まれ。料理人である父の背中を見て育ち、自身も料理の道へ。東京で日本料理の修業を重ね、2016年3月、「銀座 下鴨茶寮 東のはなれ」料理長、2017年6月「下鴨茶寮」総料理長に就任。 |