暑さが本格化する頃、人は自然と、心の涼を求めたくなります。そんな時季に交わされる贈りものが「お中元」です。
下鴨茶寮が本店を構える、京都では7月中旬からお盆頃までがお中元の時期。まさに今がその真っ盛りです。
お中元は、単なる物品のやりとりではなく、日本人の美徳である「おもんばかり」を形にした習慣といいます。そもそもお中元とはなにか、贈るお相手や時期、しきたりなどを知りたくとも、答えがわかりづらい「お中元マナー」を料亭ならではの視点でおまとめします。読めば、贈りもの上手になれる、かもしれません。
お中元の由来と歴史
お中元の起源は、古代中国の「中元節」に遡ります。旧暦7月15日、先祖の霊を供養する日として生まれた風習です。日本では仏教の盂蘭盆会(うらぼんえ)と融合し、贈答の文化として定着したといわれています。
著名な民俗学者・折口信夫の学説によれば、お中元やお歳暮で贈りものをする風習は、魂が衰えるとされた季節の代わり目である夏・冬に、子(目下)が親(目上)に対して魂を分割して物に付けて贈ることで、親は魂の力を取り戻し、再び子に還元するという考えから行われたとされています。つまり、お中元は魂を籠めた物を贈る儀式だったようです。
江戸時代には、商人が日頃の感謝を込めて取引先へ品を贈る慣習となり、次第に一般に広まりました。昭和には百貨店や食品飲料メーカーなどがお中元・お歳暮文化をけん引します。
そして現代は、親しい方やお世話になった方へ日々の感謝を伝える「夏のご挨拶」として贈るお中元。当茶寮においても、お客様や取引先とのご縁を大切にする一環として、この風習を今も大切に受け継いでおります。
【お中元マナー:贈る相手】お中元を贈るお相手は?
特別な決まりはありませんので、日頃、お世話になっている方や感謝を表したいお相手に、これからもよろしくお願いいたしますの気持ちを込めてお中元をお贈りすれば、お相手も喜ばれるはずです。
■例えばこんな方に
・恩師や仲人
・親族
・親や義実家
・会社の上司や同僚
・取引先
遠方にいる友人や知人に時候のご挨拶替わりに贈るのも喜ばれるのではないでしょうか。
■お中元を贈ってはいけないお相手は?
・公務員や組織で禁じられている方
お中元を贈ってはいけないお相手もいます。法律で贈答品の授受を禁じられている公務員や会社の規定で禁じられている方などには、贈りものをしないようお気を付けください。
・喪中の場合
お中元は感謝を伝えるものであり、お祝いではないため、喪中にお中元を贈ることは失礼ではありません。ご自身が喪中の場合は、贈りものは控えたほうがよいといわれますが、贈っていけないわけではありません。お相手が喪中の場合は、忌中といわれる四十九日を過ぎるのを待ってお贈りします。
喪中には、慶事を表す「のし」や「紅白蝶結び」は避け、白い奉書紙に「御中元」と書いて、かけ紙することをお勧めします。
【お中元マナー:時期】贈る時期と地域の違いとは?
お中元を贈る時期は地域によって異なります。関西では7月中旬〜8月15日までが目安とされていますが、関東では6月下旬〜7月15日が目安。これは、旧暦と新暦のずれによるもので、現在でもその名残が続いているのです。沖縄や一部地域では旧暦のお盆に親族で集まりお中元を仏前に備える習慣があります。
お届けの時期を逸してしまった場合は、「暑中御見舞」や「残暑御見舞」と表記を変えて贈るのがスマートです。下鴨茶寮では、お届け日のご指定やのしの表記を調整できるので、季節の節目にふさわしい贈り方が叶います。
【お中元マナー:のし紙】のし紙の選び方、表書きの作法
のし紙をかけると、まるで贈りものが丁寧にお化粧をしたかのよう。その佇まいに、贈る側の心も映し出される気がいたします。
■お中元の「のし」と「水引」の選び方
お中元ののし紙は、「紅白の蝶結び」柄を選べば間違いありません。「のし」とは、もともと熨斗鮑(のしあわび)と呼ばれる縁起物を紙で包んだもので、長寿や繁栄を祈る意味がありました。現代では簡略化され、贈答用ののし紙にその名残が印刷されています。
一方、水引は、人と人との縁を結ぶ象徴。お中元には「紅白の蝶結び」の水引が用いられます。これは、何度でも結び直せる=何度繰り返してもよいお祝いごとやお礼、という意味を持ちます。
下鴨茶寮ののし紙は、のし・水引はあらかじめ印刷されております。お選びいただく際は「紅白の蝶結び」柄をご指定ください。
なお、喪中のときには、慶事を表す「のし」や「紅白蝶結び」は避け、白い奉書紙に「御中元」と書いて、かけ紙することをお勧めします。
■「表書き」は贈る時期で変えるのが作法
お中元の場合、のし紙中央上部の「表書き」には、通常は「御中元」と書きますが、贈る時期によって表現を変えるのが望ましいとされています。
例えば、関東では7月15日を過ぎたら「暑中御見舞」、立秋以降は「残暑御見舞」となります。関西では、8月15日ごろまで「御中元」と記します。
【関東の場合】
7月上旬 7月15日 8月7日 8月8日以降
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【御中元】 【暑中御見舞】 【残暑御見舞】
(7月初旬~中旬) (7月15日~8月7日) (8月8日~立秋後)
下鴨茶寮では、ご注文の際に時期に合った表書きをご指定いただけます。また、送り主様(ご自身)のお名前を入れることで、より丁寧な印象となり、お相手様にも深く記憶されることでしょう。名入れのご指定も承っています。
【お中元マナー:選び方】お中元の相場と選び方 心づかいのかたち
京都では、贈りものに金額の多寡を持ち出すことは、あまり好まれません。“どれだけお世話になったか”やお目に掛かる頻度や関係性で贈りものを選ぶので“相場”という考え方には違和感があるのです。
とはいえ、「どのくらいの品を選べば、失礼がないだろうか」「相場を知りたい」──お中元を選ぶとき、多くの方が抱える迷いです。贈るお相手や立場に応じたお中元の相場の目安を出している各百貨店サイトなどを調査し、まとめましたので、お役立てください。
■お中元の「相場」について調べました
お中元の相場は一般的に、3,000円〜5,000円が中心とされているようです。高価すぎてもお相手が負担に感じるので、お相手が受け取りやすい金額というのが相場についての考え方となります。特別にお世話になった方やご親族には金額よりふさわしいものを、と選ばれているようです。
職場・親族・友人…への贈りものの目安に
■会社関係・取引先:5,000円〜10,000円
目上の方や日頃の感謝を形にする場では、質感のある包装や木箱入りのギフトなどが貯法します。
■親族・家族:5,000円〜10,000円
家族や親族などご自宅にお贈りしやすいお相手ならば、冷蔵や冷凍の商品も気兼ねなく贈ることができます。
■友人・ご近所:3,000円〜5,000円
気軽に贈れる量目ながら、素材やこだわりが詰まった「小粋な品」を選ぶと、印象深い贈りものとなります。
相場だけに頼らず、「贈られた方が受け取りやすい価格帯」を考えながらお品をお選びください。下鴨茶寮の品は、その佇まいも含めて、相手の心に残るよう設えられています。
■どんな品が「お中元らしい」贈りものなのでしょうか
茶懐石の“おもてなし”は、お相手に季節を感じていただき、その美味と癒しをお届けしようとする心遣い。それはお中元にも通じる心です。
お中元には、夏の「旬の味」や、暑い夏に「涼」を届ける意味も込められています。
たとえば、夏にふさわしい冷製のご馳走や、出汁の香りが立つ上品な味わいは、受け取る方の五感に涼やかさと癒しを届けます。
下鴨茶寮では、京の夏を感じていただける品として、「鱧と旬菜の出汁しゃぶ」を、“涼”を感じていただける贈り物として「すりながしギフト」などをおすすめしております。
また、素材の良さはもちろん、手間ひまをかけた仕込みや、風呂敷を思わせる包装の美しさ──それらすべてが「品格あるお中元」として、お相手の心に深く残ると考えています。
■季節や夏の涼を感じる下鴨茶寮の贈りもの
(冷蔵)鱧と旬菜の出汁しゃぶ
京都の夏といえば鱧(はも)。旬野菜とともに詰め合わせ、冷蔵にてお届けします。まさに京都の夏便り、季節を感じさせる贈りものとして、お中元や暑中見舞いに大変人気の逸品です。
(冷凍)料亭のすりながし〈ギフト〉
すり下ろした野菜をお出汁で割った「すりながし」を夏は冷製で、冬は暖かいスープとしてお愉しみください。食が細った方やご高齢の方にも、よくお召し上がりいただけるとご好評をいただいております。
(常温)【夏季限定】料亭のご馳走 ちりめん二撰 「万願寺とうがらしちりめん・ちりめん山椒」
夏の京野菜の代表格、青々と目にも涼しい「万願寺とうがらし」を使ったちりめんです。定番のちりめん山椒とセットで、ギフト包装にてお届けします。常温でお日保ちもよく、重宝いただいております。
【お中元マナー:風呂敷】風呂敷の使い方
風呂敷は単なる包装ではなく、「丁寧に包んでお持ちしました」という意味を込めており、お相手への敬意を表すものです。
風呂敷の色や柄にも心を配りたいもの。慶事には淡く明るい色を、不祝儀には控えめな色合いを選ぶのが一般的ですが、近年では、モダンな柄や、季節を感じさせる文様を選ぶ方も増えています。
風呂敷包みの基本は「真結び」。ほどけにくく、かつ開きやすいこの結び方は、「ほどけない絆」や「永続」を意味する縁起の良い結び方として重宝されています。
下鴨茶寮の通販においても、ギフト包装に風呂敷包みを採用しているお品がございます。特に丁寧さが伝わるとご好評をいただいております。
下鴨茶寮の風呂敷つきギフト
料亭のあんぱん
粒あんを練り込んだデニッシュ食パン。本店のお土産として喜ばれていたものを商品化しました。トーストしてバターをぬるとやさしい甘味が引き立ちます。ピンクの鴨柄の不織布で、可愛らしい印象です。(この商品はのしはお付けできませんのでご注意ください)
〈期間限定〉料亭の酒宴彩り御膳
お祝いの席の酒肴として、また、贈りものとしてお使いいただける、華やかな海鮮を詰め合わせたお膳です。おめでたい亀甲柄をあしらった不織布でお包みしました。(この商品はのしはお付けできませんのでご注意ください)
〈熊本県産〉天草大王の水炊き
熊本の幻の地鶏「天草大王」を京都の伝統料理「水炊き」に。つみれや焼き手羽のほか、具材もたっぷり。朱の風呂敷がお祝いの席にも映える装いです。(内のしをお付けできます)
■風呂敷はそのまま渡す?はずして渡す?
基本的には、室内で手渡す場合は風呂敷を外してから渡すのが丁寧です。
玄関先や出先でのお渡しの場合は、風呂敷に包んだまま、両手で持ち、「心ばかりの品ですが」とひと言添えて、風呂敷ごとお渡しします。この場合、受け取った方に風呂敷で持ち帰って再利用してもらうことが多いため、回収しません。
■風呂敷を解いて渡す方法
風呂敷に包んだ贈りものは、和室の場合は、正座して自分の左側に置き、結びを解き贈りものを取り出します。このとき、風呂敷は全部広げずに、一辺を広げる程度に。所作を美しく見せるために広げすぎないことが大切です。贈りものを取り出したら、さっと畳んで左奥に置くか持参のバッグなどに入れます。丁寧に畳むのは、席を改めるときなどに落ち着いて。
取り出した贈りものは、正面をお相手に向けてお渡しするのが礼儀です。
正面とは、のし紙の表書きがお相手に読める向き、もしくは品名ラベルがある場合はそれが読める側です。
まず、贈りものを自分の正面に置き、90度ずつ回して、お相手側に正面が向くようにし、「ささやかではございますが」などと言葉を添え、両手で差し出します。
お品を渡したら、手をついて一礼し、お相手に敬意を表しましょう。
近頃は、和室も少なくなりましたので、臨機応変にご対応ください。美しい所作を心がけ、心を込めてお渡しすれば、必ずお気持ちは伝わります。
【お中元マナー:お礼】お中元のお返しとお礼の作法
お中元に“贈り返し”を求められることはありませんし、手書きのお礼状ひとつで感謝を伝えることも失礼とはされません。もちろんご返礼しても失礼ではありません。
■お中元には「お返し」より「お礼状」を
お中元は、日頃の感謝を伝える「贈る側の想い」が主となる風習です。そのため、受け取った側がお返しをする必要は、基本的にありません。
むしろ大切なのは、届いた品への感謝の気持ちを、できるだけ早く丁寧に伝えること──すなわち「お礼状」です。
お礼状は、品が届いたら2〜3日以内に出すのが望ましく、形式ばらずとも、相手の心を想う一筆が心に残ります。料亭でも、贈答のやりとりに際しては必ず、手書きの礼状や季節のご挨拶を添えさせていただいております。
■お礼状の書き方──文例と押さえたい言葉
お礼状には、下記のような流れを意識すると自然です。
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季節の挨拶(「盛夏の候」「酷暑の折」など)
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品物が無事に届いたことへのお礼
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品物の印象や喜び(「香り高いちりめんの味わいに、家族一同舌鼓を打ちました」など)
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相手の健康を気遣う言葉と、今後の関係を結ぶひとこと
たとえば──
盛夏の候、貴殿にはますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
このたびは、結構なお中元の品を頂戴し、誠にありがとうございました。
家族皆でありがたく頂き、涼味豊かな味わいに季節を感じるひとときとなりました。
酷暑の折、くれぐれもご自愛くださいませ。
■返礼をしたい場合の「マナーと時期」
特に目上の方や、形式を重んじる相手への場合、何も贈らずに済ませるのは気が引ける──というお声も少なくありません。
そのようなときは、「残暑見舞い」として贈るのが、さりげない心遣いとして美しいかたちではないでしょうか。
8月上旬から中旬にかけて、涼を届けるような品を選ぶのが好ましく、料亭の味わいをそのまま冷凍でお届けできる商品などは特に人気です。
お中元に対する「お返し」は義務ではありません。お礼の心をきちんと伝えることが、何よりの返礼となります。
下鴨茶寮では、贈る方にも、受け取られた方にも、気持ちの行き届いたやりとりを育むための橋渡し役として、ささやかなお手伝いができれば幸いです。
参考文献
島村恭則編「現代民俗学入門」創元社
郵便局「暑中見舞い・残暑見舞いマナー」
新宿高島屋
三越伊勢丹