
京都・下鴨の地に佇む茶懐石料亭、下鴨茶寮は、来る2026年に創業170年の節目を迎えます。その厨房を預かる総料理長・本山直隆が、特別な「おせち」を仕立てました。
歴史の重みを背負いながらも、時代とともに変化し、挑戦し続けてきた料理人。その歩みのなかでも、「おせち」は特別な意味を持つ料理だといいます。年神様を迎えるための“神聖な料理”に、料理人としての覚悟と祈りを込める。晴れの一品にかける思いを伺いました。
総料理長としての十年──店とともに歩んで

下鴨茶寮総料理長・本山直隆
2026年、下鴨茶寮は170周年を迎えます。京都という街では、こうした節目も大きくは騒がれません。「密かに『来年170年目だな』と感じていたくらいです」と本山は笑います。どこか淡々とした姿勢に、京都という土地に根付く時間感覚が滲みます。
本山が総料理長に就任したのは今から十年前。「銀座店の立ち上げのために入店し、その翌年、総料理長に就任しました。」
放送作家であり、当時、下鴨茶寮を継承したての小山薫堂のもと、“格式を守りながらも現代に息づく料亭”を目指し、新たな歴史を刻んできました。本山は下鴨茶寮の厨房を預かりながら、小山が主催する文化的な催しや異分野の料理人との共演「あえるの夜」にも主役のひとりとして関わっています。料理を通じて人と文化が交わる場に立ち会うなかで、自身の料理にも変化を生み続けてきました。

下鴨茶寮主人・小山薫堂
「僕にとっては料理がすべて。料理を通じて会社や社会に変化を起こしていきたい」と語る総料理長・本山が取り組んだ、創業170年目のおせちとは。
おせちという“神聖な料理”

下鴨神社
本山いわく「おせちは、僕にとって特別な料理です」。
「僕たちにとっても1年に一度という大切なことですし、それを買っていただくお客様にとっての大事なものであり行事であると思っているので、感じる責任がちがいます」
「そして、おせちは、年神様をお迎えして1年の無事を祈る大切な行事に付随する食事『神饌』だと思っています」と 本山。
下鴨茶寮は、世界遺産・下鴨神社の専属包丁人を務める料亭として、神事に日常的に向き合い、節句を大切にしてきました。そのご縁があって、下鴨茶寮のおせちは下鴨神社より特別な縁起を授かっており、下鴨神社宮司直筆の干支の文字が入った小鉢が入っているおせちもあります。
下鴨神社宮司直筆干支陶器(朱印と葵の図入り)
下鴨茶寮と下鴨神社のご縁を考えるとき、「おせちは“神聖な料理”」と語る本山の言葉に重みが増します。

「下鴨茶寮の特撰おせちは、毎年年末に、本店の料理人だけでなく、本社の事務方まで総動員で仕上げる一大行事です。盛り付けは一日で行われ、徹夜になることもありますが、年に一度のことですから」
そう語る本山ですが、特撰おせちの盛り付けは、本山自身が手を動かして仕上げるといいます。本山にとっておせちづくりは、新しい年を迎えるための儀式なのかもしれません。
まったく新しいおせちを創る

翌年のおせちの計画は、その年のおせちの仕込みを終えるとすぐに始まります。
2025年のおせちをお届け終えたとき、来年は特別晴れやかなおせちをつくりたいと、本山の言葉を借りれば「誰からともなく、みんながそう思った」。
主人・小山薫堂に相談したところ、まさに自分もそう考えていた、と。ここから、まったく新しいおせちをつくる計画が動き出しました。誰の心にも、創業170年目への想いが静かに去来していたのかもしれません。
「今回の特製おせちは、完全に新しい挑戦でした」と本山はいいます。
特製おせちに込めた美意識
主人・小山薫堂は素材の産地と味わいに、なみなみならぬこだわりがあり、小山がこれなら、と納得するまで特製おせちの試食会を重ねたといいます。
こうして、創業170年周年の「【本店】特製和おせち 二段+合鴨鍋」が完成。本山に特製おせちの構成と設えについて訊きました。

【本店】特製和おせち 二段+合鴨鍋 324,000 円 (税込) 
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「おせちは食べてから買うということができないので、見た目の華やかさは大事です。ただ、縁起などの意味があって必ず入れるべきものがあるので大きくは変えられない。どうしても内容が硬くなるので、キャビアやからすみを添えて新しい豪華さを出しました」

「おせちはまず器から考えますが、なかみが豪華になる分、お重は自然な木の温かみを感じられるようなものの方がいい。木箱を採用して、高級感や品格を両立させました」(本山総料理長)
「盛り付けは『静』と『動』を意識しています。一の重では『動』。賑わいを持たせることで、晴れやかな気配を出します。」(本山総料理長)

一の重
「二の重は、整然とした美しさを重んじて、厳かな正月の『儀式性』を表現しています。」

二の重
三の重の「煮しめ」は、おせちのなかでは、料理人の腕を最も発揮できるといわれています。堀川ごぼうや巻き湯葉に京都らしさを、花蓮根、松笠慈姑、(まつかさくわい)、梅人参などの飾り切りでおめでたさを、伊勢海老や海老芋、魚卵に長寿と繁栄の願いを込めています。そして、菜の花ひたしや穂付筍に早くも早春の兆しを感じさせます。170年目の晴れ膳にふさわしい華やかさ。本山の美意識がなせる業です。

三の重
「雅(みやび)を感じていただけたら」と本山はいいます。「おせちは濃い味付けになりがちですが、当茶寮のおせちは、お出汁のきいた淡い京都らしい味、と言っていただくことが多いです。ただ、京野菜にしても僕たちにとっては普通のことなので、意識して京都らしくというより、自然にそうなるということかと思います」
170年目の料亭が、未来へつなぐ「語り継ぐおせち」

【本店】特製和おせち 二段+合鴨鍋 324,000 円 (税込) 
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本山は、創業170年目の特製おせちを“語り継ぐおせち”と表現しました。
「これはまだ完成形じゃない。毎年アップグレードしていく、変化させていくという気持ちを込めての『語り継ぐおせち』です」
「このおせちは、おじいちゃん、おばあちゃん、子どものような三世代の家族だったり、なかなか会えない方々やご友人同士だったり、皆さんが集まって食べることを想定しています。食を囲む喜びを1年に1回だけだったとしても、未来につないでいただきたいという思いもあります」
「料亭がつくるおせちを届けることで、正月という特別な日に少し背筋が伸びるような特別な時間を作れる。家庭にいながらも特別な時間を提供するというのが、きっと僕の責任と役割だと思っています」
おせちは料理人としての原点

最後に本山総料理長にとっておせちとはなにか?を問うと、
「料理人としての『原点』あるいは、『源泉』でしょうか。料理で人を幸せにしたいと志して、料理人になりましたが、おせちほど、幸せを願う料理はほかにないなと感じます。おせちを通じて人々の1年の始まりに料理をもって幸せを祈り、毎年自分の料理で人々が幸せになってくれていると思うことに誇りと喜びを感じています。
だから、僕にとっておせちは料理のなかでも特別なものなんです」
節目の年に、本山直隆総料理長が語ったのは、変わらぬ初心と、変わり続ける覚悟でした。
170年の節目のおせちに、みなさまの幸せを願い、下鴨茶寮のこれからをみなさまとともに歩めますよう、新年の祈りを込めてお届けいたします。