寒さを感じる日に、湯気の立つ温かな料理を。
鍋の中でゆっくりと温まり、出汁を含んでいく大根や生ゆば、練り物。好きな具材をひとつずつ選びながら、合間に出汁を口へ運ぶ。おでんには、温かな料理を囲む安らぎと、食べ進めるほどに味わいが深まる愉しみがあります。
下鴨茶寮が仕立てる「京おでん」は、鍋商品のなかで最も長く、20年以上にわたってお届けしてきた一品です。具材を出汁とともに味わう、その仕立てを変えることなく受け継いできました。
京都で育まれてきた出汁の文化を背景に、どのように旨みを重ね、一つの味わいへと仕立てているのか。そのおいしさを紐解いていきます。
京都のおでんと、出汁。

おでんの始まりは、豆腐を串に刺して焼き、味噌を塗った「田楽」にあるといわれています。
江戸時代には庶民の味として広まり、やがて出汁でさまざまな具材を煮込む、現在のおでんへと姿を変えていきました。各地へ伝わるなかで、その土地の食材や味付けと結びつき、地域ごとの味が生まれていきます。京都では、昆布などから引いた出汁を生かし、具材の持ち味を引き立てながら味を含ませていく。色濃く煮染めるのではなく、素材の色合いや風味を残しながら、ゆっくりと旨みを含ませていきます。
出汁を味わい、その出汁によって具材を引き立てる。そこには、素材そのものを生かす、京都の料理に通じる考え方があります。
土地の水が育てた、京都の出汁

京都の出汁文化を語るうえで、欠かせないもののひとつが水です。京都盆地には地下水が豊かに流れ、その多くはミネラル分の少ない軟水とされています。やわらかな水は昆布の旨みを引き出しやすく、出汁を料理の土台とする文化を支えてきました。
北海道で採れた昆布は、かつて北前船によって日本海を渡り、上方へと運ばれました。京都の水で昆布の旨みを引き、淡い色合いの醤油で味を整える。素材の色や風味を生かしながら、出汁の旨みを含ませる。そうした味わいは、京都の料理へと受け継がれています。
澄んだ出汁に、旨みを重ねて

下鴨茶寮の京おでんは、白だしと薄口醤油を基本に、帆立と鶏の旨みを重ねています。淡く透き通った出汁をひと口含めば、やさしい旨みが広がり、幾重にも重なる味わいをお愉しみいただけます。
合わせる具材にも、料亭ならではの仕立てを。なめらかな口当たりの生ゆば、国産鶏のミンチに魚のすり身と九条ねぎを合わせた鶏つくね天、京合鴨の合鴨つみれ。
出汁を含んだ大根を頬張り、生ゆばのやわらかな舌ざわりを愉しむ。練り物から出た旨みは再び出汁へ溶け込み、鍋の味わいを少しずつ深めていきます。
豆腐に魚のすり身、かに身、筍、人参を合わせた京ひろうすなど、それぞれに異なる食感と風味を盛り込みました。
それぞれの持ち味を重ね、ひとつの料理として味わっていただくもの。下鴨茶寮では、その味わいを支える出汁を大切にしています。
おでんを囲む、温かな時間

鍋から立ちのぼる湯気と、ふわりと広がる出汁の香り。今日はどの具材から味わおうかと鍋をのぞき、ひとつずつ器へ取り分ける。おでんの愉しみは、料理だけでなく、そのひと鍋を囲む時間にもあります。
大根に含んだ出汁を味わい、生ゆばのやわらかな口当たりを愉しみ、また出汁をひと口。好きな具材を選びながらゆっくりと食べ進めるうちに、出汁の味わいも少しずつ深まっていきます。
忙しい日の食卓に温かな一品を添えたいときにも、大切な方とゆっくり過ごすひとときにも。そして、大切な方の食卓を想う贈りものにも。
湯気の向こうにある温かな時間とともに、下鴨茶寮の京おでんをお愉しみください。
参考
京都市上下水道局「京都市の水道水の硬度」
https://www.city.kyoto.lg.jp/suido/page/0000229054.html
文化庁 日本遺産ポータルサイト「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間 ~北前船寄港地・船主集落~」
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story039/
農林水産省「寒い冬にもってこい!おでんを学んで楽しもう!」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/culture/wagohan/articles/2302/spe14_02.html
農林水産省「うちの郷土料理 次世代に伝えたい大切な味 おでん」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/34_5_tokyo.html
書籍
『たべもの起源事典』(岡田哲 編、東京堂出版、2003年)
『江戸買物独案内』(中川芳山堂、文政7年/1824年刊)


